以前の記事では、体内時計が実際の時計よりも体質的に遅れてしまい、夜に眠れず朝起きられなくなる睡眠障害である睡眠相後退症候群(delayed sleep phase syndrome, DSPS)の治療法の一つとして生活習慣の見直しを挙げました。今回は、その中でも光環境について詳しく取り上げたいと思います。
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部屋の明るさ
光は体内時計を調整する重要な要素の一つです。朝の早い時間に自然光を浴びることで、体内時計をリセットし、夜に自然な眠気を感じられるようになります。一方で、夕方以降に明るすぎる環境で過ごすと、メラトニンの分泌が抑制されてしまいます。睡眠の質を低下させる原因となるため、部屋の明るさを50lx以下に抑えることが大切です。特に、蛍光灯にはブルーライトが多く含まれるため、間接照明などのオレンジの電球色の照明を使用しましょう。また、就寝中の常夜灯、豆電球も健康に悪影響を与えることが分かっています。そのため、寝る前にわずかな灯りであっても消し、真っ暗な環境で寝ることを心掛けましょう。

ディスプレイの光の影響と対策
スマホやタブレットのディスプレイから発せられるブルーライトも、メラトニンの分泌を大きく抑制します。 特に、寝る前にスマホを30cmの距離で見ることは、3m離れたテレビを見るよりも100倍悪影響があるとされています。寝る直前までスマホを使うと、体が「まだ昼だ」と認識し、メラトニンの分泌が抑制されます。 その結果、寝つきが悪くなり、眠れても睡眠の質が低下し、翌日のパフォーマンスが低下するのです。ベッドでスマホを使用することによる睡眠障害の発生率は2.6倍にもなるとの報告もあります。

そこで、以下のような対策が有効です。
・画面の色を暖色系に切り替えてブルーライトを軽減するiPhoneのナイトシフトやAndroidの夜間モードに切り替える
・ディスプレイの明るさを下げる
・就寝1時間前にはスマホやタブレットの使用をやめる(紙の本やマンガはOK)
まとめ
このように、光環境は睡眠の質に大きな影響を与えます。 特に、夜間の強い光はメラトニンの分泌を抑制し、寝つきを悪くしたり睡眠の質を低下させたりします。
今日からできる光環境の改善ポイント
✔️夕方以降は50lx以下のオレンジ色の間接照明に
✔️就寝時は完全に暗くする(豆電球や充電器の光もNG)
✔️ナイトシフト・夜間モードを活用する
✔️寝る1時間前にはスマホ・タブレットを使用しない
✔️朝は日の光をしっかり浴びて体内時計をリセット
これらを実践することで、より深い質の高い睡眠を得ることができるでしょう。快適な睡眠のために、今一度「光環境」を見直していかがでしょうか?
当クリニックの記事が皆さまの睡眠や健康の改善の一助となることを願っております。
参考文献
- Park, Y. M. M., White, A. J., Jackson, C. L., Weinberg, C. R., & Sandler, D. P. (2019). Association of exposure to artificial light at night while sleeping with risk of obesity in women. JAMA Internal Medicine, 179(8), 1061–1071
- Zeitzer, JM, Dijk, D.-J., Kronauer, RE, Brown, EN, & Czeisler, CA (2000). Sensitivity of the human circadian pacemaker to nocturnal light: melatonin phase resetting and suppression. J Physiol, 526 (3), 695–702
- Fernandes-Cunha, GM, Lee, HJ, Kumar, A., Kreymerman, A., Heilshorn, S., & Myung, D. (2017). Immobilization of Growth Factors to Collagen Surfaces Using Pulsed Visible Light. Biomacromolecules, 18 (10), 3185–3196.